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色々あったせいか、無駄に変な感情がこもってたり、〆が変だったりと至らない点はたっくさんありますが、これで終わりです。
こんなゆっくりでも、ちょこちょことここを覗いてくれていた方、ありがとうございました。
新しい島が、もうすぐ始まりますね。
そこで“彼”が目覚めるかどうかは判りませんが、その時はよろしくお願いします。
「こ、コイツは一体・・・」
「小さきモノよ、お主はこの島の生まれなのにソレを知らぬのか? ソレは“終末”じゃよ」
不自然な情景に本能が警告を鳴らす。体中の毛が逆立ち身構える小動物に、魔王は涼しい顔のまま事も無げに言った。
「“終末”って何だよっ!」
「おお、そうか。お主は確か、『二つ前のこの島』で生まれたと言っておったのぅ」
魔王はその問いに答えず、自分の内で確認するように言葉を続ける。
「二つ前は通称『島』と呼ばれており、【主】が無数の星を従えた〝災厄〟に対抗する為に創り上げた天からの受け皿。
一つ前は通称『学園』と呼ばれており、・・・まあ、【主】が気紛れで創ったが半期程度で終わりを告げた学び舎じゃ。
そして今は通称『偽島』と呼ばれる、『島』であって『島』では無い場所に成っておる。
それぞれは同じ場所でありながら、まったく違った姿形を晒しており、それはもう別の世界と言っても過言ではなかろう。
さて、小さきモノよ。お主はそれらの変改期・・・切り替わりの瞬間は何をしておった?」
「何をって・・・、何か知らねぇが無性に眠くなった時があってよ、どの位寝てたか判らねぇが、目ぇ覚めたら何もかも変わっていたって感じだったかな。
・・・いま考えてみりゃ不思議な話だが、それを特に変だと思わなかったな。『こういうものだ』みたいに、オレッちたちは捉えてたっけ」
小動物に言葉に納得したように頷く。
「やはりな、お主の場合は今までに二度の切り替わりを体験した。
しかし、それらの時はどちらも終わりの時期が定まっていたから、緩やかな強制力のある眠りに就かされていたのだろう」
恐らく、島に住する他の生き物たちもな、と魔王は付け足す。
「はぁ? 確かにオレッちのダチや家族もみんな眠りこんでいて、切り替わりの時に起きてたヤツは居なかったらしいけどよ・・・誰が、何でそんなことを――」
「それは【主】が、お主たちの基本情報を転送作業によって破壊せぬよう安全の為に凍結圧縮したからじゃよ」
「・・・え~と、何を言っているのかさっぱり判らねぇが、もしそれをしてなかったら、オレッちたちはどうなっていたんでぃ?」
「そうじゃな。よくて情報の一部破損による人格の欠如。最悪、完全消去といったところかのぅ」
「ええいっ、さっきから何の専門用語だか知らねぇが、もっと判り易くはっきり言いやがれっ!!」
魔王の回りくどい言葉に、短慮な小動物は声を荒らげた。
「お? おお、すまんのぅ。言われてみればこの用語は、この地では馴染みが薄いやかも知れんな。
要するにじゃ、消え去るんじゃよ。何も残さずに、綺麗さっぱりとな」
「んなっ・・・!?」
エリエスヴィエラはどこか諦観した笑みを浮かべる。
「詮ずる所、お主もワシも【主】の気紛れ、ポンッと鍵(けん)を押されたら跡形も残らぬような、儚い存在だしのぅ・・・。
それはさておき、凍結圧縮――眠りに就かされていない今の状態であの“終末”に呑み込まれれば、消滅――ワシらにとっては死と同義じゃがの――する、それだけのことじゃ」
「それだけのことって、オマエなっ! オレッちはヤだぞ、そんなのっ!!」
「ほほぅ、何故じゃ? これはこの島の生き物として存在している以上、逃れえぬ定めじゃぞ?」
エリエスヴィエラのどこか試すような目の色に気付かず、小動物は叫ぶ。
「何故ってなぁ、どこのどいつが望んで消えたがるかって~のっ!
そりゃ、生きててイヤになることなんてザラにあるさ、でも――それが生きてるってことだろ。
それによ・・・」
「それに、なんじゃ?」
「・・・それにな、オレッちはアイツと『約束』したんだ」
真っ直ぐな、くりくりとした黒い瞳が魔王に向けられる。
「この場所で、必ず待ってるってな」
小さな身体に揺るがぬ強い意志を秘めて、
「定めなんて知ったことか、そんなの最後の最後まで抗ってやるさっ!」
闇はすでに天井を侵食し、四方から迫り来るというのに、小動物は一片の恐れも見せずに言い切る。
エリエスヴィエラは一瞬キョトンとし、次に声を上げて笑い出した。
「くくくっ、やはり閉幕まで結末は判らぬものじゃのぅ。
小さきモノよ、御ひねり代わりにカーテン・コールの機会を授けてやろう」
エリエスヴィエラがパチンッと指を鳴らすと、瞬時に小動物の体がシャボン玉のような透明の球体に包まれてふわりと宙に浮かび上がる。
とっさに小動物は手を伸ばすが、薄い膜に触れても先程の魔方陣の結界と同じように、よく判らない感触が伝わってくるだけで、凹みも割れもしなかった。
「これこれ、そう慌てるでない。それも一種の結界じゃ。その中に居れば、この“終末”も乗り越えて次の『島』でもお主として在ることが出来るじゃろうて」
その時、空間をも闇に染めた“終末”が魔王の足元まで辿り着いた。
そしてそのまま、闇は魔王のことも呑み込んでいく。
「ちょ、魔王! 何でオマエも呑まれてんだよっ! どうしてオレッちにしてるような結界を自分にやらねぇんだ!!」
痛みは無いのか、足から膝へと徐々に呑まれているのに、魔王は小動物に冷ややかに微笑む。
「ワシはいいのじゃ、お主とは違うからのぅ」
「どういうことだよっ、何が違うってんだ!」
「小さきモノよ、お主には『約束』がある」
その言葉にピタッと小動物の剣幕が止む。
「お主は恐らく、この島の生き物の中で唯一『約束』をしている存在じゃろう。
だからこれはワシからのサービスじゃ。
また、彼奴と会うんじゃろ?」
エリエスヴィエラはいつもの氷のように冷たい笑みとは違う、柔和な笑顔を小動物に向ける。
意外な魔王の様子に声を呑む小動物に、からかうように魔王は笑いかけた。
「ほれほれ、まさか『ワシがお主らの友情に心打たれて、自分の身を犠牲にしてお主を助けた』などと思うではないぞ?
ワシとて七柱神の一つ、その気になれば自身を含めた島の全生物を救うなど容易いものじゃ。
まあそれはさておき。ただな、観てみたいのよ」
魔王の豊かな胸が闇に呑まれていく。
「一人と一匹の約束が果たされる物語りのフィナーレを、な」
「魔王・・・」
「だがこれしか方法が無いと言っても、彼奴――或いは彼奴に近き者がこの『島』に訪れないのならば、お主は永劫に目覚めず眠り続けることになるじゃろう。それでもよいかのぅ?」
もはや首から上を残すだけの魔王に、小動物は大きく頷く。
「ありがとな、魔王」
「くくっ、まともに感謝されるのは久しぶりじゃが、悪いものでは無いのぅ。では暫し眠るがよい、さらばじゃ」
次の瞬間、小動物の意識は途切れ、夢も見ないほど深い眠りの中に沈んでいった。
「・・・さて、これで全て終わりだのぅ」
すでに頭上から目元辺りまで闇に融け、鼻先から顎だけを残すのみ。
小動物を内に含んだ結界も闇に沈んだが、余程のことがない限り彼奴が消えることはないだろう。
「フィナーレを観てみたいとは言ったが、彼奴等が出遇う時にワシがワシで在れるかは判らぬがな。
こればかりは、『【主】のみぞ知る』だからのぅ。
・・・まあ、それを夢想するのも一興というものよ」
にやりとした赤い唇が闇に包まれた後には、何一つその世界に残るものは無かった。
雪の精と小動物の物語りは、ここで一旦幕を閉じる。
彼らが再び出遇い、新たな物語りが紡がれていくのか。
それはまた、別のお話し。
――終雪――