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サボってましたすみません。 (_ _ ;)
文章自体は前回の時点で書きあがってたんですけどね・・・。
たぶん残り一回です。
「・・・すまねぇ、なふゆ。オレッちが行けるのは、ここまでだ」
出会いは偶然に、別れは突然に。
「りっちゃん、何を・・・言ってるの?」
それは天使の導きか、悪魔の所業か。
「なふゆ。ここで、お別れだ」
それは、誰にも判らない。
「――そ、それって――」
魔方陣の上を駆け抜け、なふゆは小動物の元へ近付こうとする。
しかし魔方陣の外に出ようとしても、その境界の空間には硬いのか軟らかいのかすら判らない透明な壁のような物があり、それ以上先に進むことが出来なかった。
「悪いが結界を張らせてもらった。いま陣の中からお主に出られると、儀式が失敗する・・・やり直す時間も無いしのぅ」
呆然とするなふゆに、エリエスヴィエラは無表情に告げた。
「りっちゃん、どうしてっ! 何でお別れなんて言うのっ!」
なふゆは耳を疑い、困惑と動揺の色を滲ませ、小動物に問い訊ねる。
だが小動物は強く唇をかみ締めたまま黙っている。
その時、代わりに魔王が口を開いた。
「銀雪を纏いしモノよ、この島のルールを覚えておるか?」
「・・・ルール?」
「お主は空から降ってくるという、イレギュラーな方法でこの島に訪れた。
だから所持してはおらぬだろうが、これを目にしたことはあるはずじゃ」
エリエスヴィエラが右手を広げると、瞬時に一枚の白い紙片が現われて、その手に収まる。
そして、忌々しい物でもあるかのように文面をなふゆの方に向け、淡々と紙面に書かれた文字を読み上げた。
”これは日々退屈を感じている諸君への招待状。それは不思議な島の遺跡。島を出れば遺跡で手にした財宝は消える、しかし七つの宝玉があれば消えない、宝玉は遺跡の中。島はエルタの地より真南の方向、素直に信じる者だけが手にできる財宝―――胡散臭いですかなっ?ククッ・・・疑えば出遅れますよ、パーティーはもう始まっているのです。”
「見覚えはあろう。ありとあらゆる世界に向けて〝ある男〟が送った、この島への招待状じゃ」
〝ある男〟の部分を強調して言い捨てると、招待状をかき消す。
「それだったら、以前ピンクの丸っこい人に見せてもらったことがある・・・でも、それが何だっていうのっ」
なふゆの語気荒い言葉を、エリエスヴィエラは感情の見えぬ真っ直ぐな視線で受け止める。
「ワシはお主のことを、それほど愚かだとは思っておらぬ。――まだ気付かぬか?」
「分からないよっ。だって、わたしはこの場所からは財宝どころか、何一つ持って行こうとは――」
ふとその時、なふゆの中で何かが引っかかった。
島を出れば――手にした――消える、――七つの宝玉が――消えない
ドクンと一際、心臓が高鳴った気がした。
寒さをほとんど感じないはずの体に、震えが走る。
「・・・え? 島を出れば、消えるって・・・まさか、そんな・・・」
そんな雪女の様子を見て、魔王は先程、「もう二度と、この島に来ることは無い」と言い切る直前の逡巡のときに見せた、同情的な表情になる。
見るに忍びないという風に、瞬きひとつ分の間だけ目を伏せた。
程度は違うだろうが、死刑宣告を言い渡す者は、きっとこんな表情になるのだろう。
「そう、何もそのままで持ち出せぬのは、財宝に限った話では無い。それはこの島で生み出された物、全てに及ぶのじゃ。
もちろん・・・この島で生まれた、そこの小さきモノも、な」
雪の精霊は愕然としたまま、助けを求めるように小動物に視線を落とす。
小動物は耐えるように固く目を閉じている。
「この島はな、誰かの見ている夢のような場所じゃ」
エリエスヴィエラは静かな声で語りだす。
「他の世界では考えられぬほど日毎に律が変化し、時には今日という日までもが気付かぬうちに何度もやり直されたりする。ここでは死という事象すらも、実際的には消滅に繋がらん。例え外から訪れた者が命尽きようとも、夢から覚めるように元の世界に戻るだけ。
まあ、思う込みの強い者だと、自らに『自分は死んだ』という暗示をかけてしまい、二度と目を覚まさぬということもあるようじゃが」
さすがにそこまでは面倒見きれんしのぅ。とエリエスヴィエラは零した。
「このように定まりの無い夢みたいな世界では、生まれる産物も幻のみたいな物じゃ。
もちろん、それは如何なワシですら例外ではない。いわんや、小さきモノでは、じゃ」
ははっ、と小動物から小さな笑い声が漏れ、顔が上がる。
「よりにもよって自分自身のことを失念するなんて、間抜けにも程があるよな。
・・・いや、もしかしたら本当は考えたくなかったのかも知れねぇな。オレッちもずっと一緒になふゆと旅をして行きたいなって、夢を見ていたからな・・・」
「・・・りっちゃん・・・」
なふゆはわずかに俯き、それに合わせて銀色に輝く前髪がシャラリと流れて目元を隠す。
「ダメだよ・・・」
長い髪の隙間から垣間見える口が震え、ポツリと押し殺した声が漏れる。
「ダメだよ・・・わたし、一人じゃ歩いていけないよ・・・」
なふゆは陣の中にのみ振り注いでいる雪のような粒子を掻き分け、勢いよく顔を上げる。
その赤い瞳は、深い悲しみとやるせなさに揺れていた。
「りっちゃんと一緒じゃないなら、わたしは記憶なんて戻らなくてもいい。りっちゃんと別れるくらいなら、昔の記憶なんて要らないっ!」
むずがる子供のようになふゆは叫び、いやいやと大きく首を左右に振る。
納得出来ない訳ではないが、したくなかった。
認めてしまったら、それは決別を意味することになるから。
思いの箍が外れてしまったかのように、言葉が止まらなかった。
「りっちゃんと別れることになるのなら・・・・・・わたしは、行くのを止め――!」
「なふゆっ!!」
「!!」
りっちゃんの制止の声に、なふゆの体がびくりと竦む。
「それ以上、言うな。オマエは、言っちゃいけねぇんだ・・・。
オマエは、今、記憶を無くしているが、それは消えてなくなった訳じゃねぇ、思い出せねぇだけだ。
そしてなふゆ、オマエが憶えていなくても、オマエのことを憶えているヤツはいる、想ってくれるヤツはいるんだ。
・・・魔王が言った通り、ここは夢の中と同じような場所だ。いつまでも夢を見ていちゃいけねぇ、夢を引きずっていちゃいけねぇんだ。
今が目を覚ます時だぜぃ、なふゆ」
「りっちゃん・・・」
小動物の慈愛に満ちた眼差しに、雪精は辛そうにくしゃりと顔を歪ませる。
なふゆは自分が我侭を言っていることを十分に理解していた。そして、小動物の本当の思いさえも確かに感じていた。
痛いほど判るだけに、なふゆにはこれ以上、我を通すことは出来なかった。