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もうとっくの昔に別れは済ませていたわたしにとっては、さほど重要なことではありません。
残り三回分の日記も、あの場所である意味が、もうあまり無かったですしね。
・・・・・・。
でも。
他の方の物語りを最後まで見ることが出来なくなったことが、少し残念です。
誰も見ないでしょうが、とりあえずゆっくりと、残りの物語りをここに綴りたいと思います。
読みたい方は「つづきはこちら。」をどうぞ。
「お主、あるいはお主に近い縁の者は―――もう二度と、この世界に来ることは無い」
「・・・え?」
なふゆの口から、戸惑いの声が漏れた。
「それならば、例えここで全てを知ったとしても、何の不都合もあるまい?」
何の抑揚も無く、何の気負いも無く、魔王エリエスヴィエラはただ事実だけを口にする。
脚本の無いこの島の物語りから外れた者には、もうこの世界で物語ることは出来ない。
物語りという舞台から退場する役者である雪女には、例え隠されたシナリオがバレてしまっても何の問題も無い。
魔王はそう言っているのだ。
「そんなこと、あるかっ!」
沈黙を打ち破るように、小動物の甲高い鳴き声が部屋に響き渡った。
なふゆはウサギのように赤い眼を真ん丸に見開かせ、自分の右肩に乗っている旅の伴侶を見た。
「なふゆがもう二度とこの島に来ないなんて、そんなことある訳ねぇ!
オレッちは知ってる、コイツがこの場所で出会ったヤツらのことをどれだけ想ってるかをなっ!
確かにこの島は変な生き物がうろついてたり、【主】とやらの気紛れで現れたり消えたりするような、島の生まれであるオレッちでも住み辛い場所だ。
だがなっ、こんな何も信じられない不確かな場所でも、揺るがないものはあるっ!
何かって言うと、それは――」
「それは、わたしがこの場所で会うことが出来た、みんなとの想い出、みんなという存在・・・」
りっちゃんの叫びを受け取り、なふゆが語り始める。
飾らない自分を、ありのままの自分を言葉に代えて。
「それだけは、ずっとずっと。変わらないよ。消えないよ」
わたしがわたしである限り・・・。そう口ずさみ、小動物を優しくギュッと抱きしめる。
小動物は一瞬抵抗するような素振りを見せたが、すぐに体の力を抜き、その胸に身を任せた。
「だから、わたしはきっと、帰ってくるよ。この島に、大好きなみんなと会えるこの場所に・・・」
雪の精霊は降りたての粉雪のように、ふんわりと輝く微笑を見せ、「もちろんそこには、エリエスヴィエラさんも入っているからね」と付け加えた。
そして、すぐ近くにある小動物の茶色の瞳と視線を合わせる。
「ありがとう、りっちゃん。わたし、りっちゃんに会えて、本当に良かったよ」
なふゆはりっちゃんの柔らかな毛皮に頬を寄せ、安心した表情で眼を閉じる。
それを見て魔王は、ニヤリと実に楽しげに笑った。
「小さきモノよ、お主はよくもそこまで銀雪を纏いしモノを了解したのぅ。
そして銀雪を纏いしモノよ、これほどまでに信じあえるモノと出会えた僥倖に感謝するんじゃな。
・・・この先、その身に避けること叶わぬ大きな試練が待ち受けていても、その想いを忘れねばきっと、乗り越えることが出来るじゃろうて・・・」
魔王は眩しいものを見たかのように目を細め、最後の言葉は小さく口の中で呟いた。
そして二人が体を離したのを見計らって、
「先程言った通り、未来は不確定じゃ。現時点では、再度この場所に訪れる確率が低いだけの話。
想いや行動によって、いくらでも流れは変わっていくからのぅ」
「変えてみせるよ。きっと、ね」
雪の化身は真っ直ぐ見据え、白く微笑む。
肩に乗った、この島の神を模造して生み出された小動物も、それを見て笑っていた。
ただ無邪気に、その時が訪れると信じて。
「さあ、もう行くがよい。あと一刻もすれば満月が沈む。そうなれば明日の晩まで儀式は行えぬからのぅ」
「え? この魔法陣って、夜しか使えないの?」
疑問の声を上げるなふゆに、エリエスヴィエラは小さく首を振る。
「いや、普通に使用するなら夜以外でも問題ない。だがそれだと、島の中央――〝災厄〟が降り立った場所にしか飛べんからのぅ。
これから行うのは、この魔方陣を媒介にして望みの時空へと繋げる儀式じゃ・・・しばし待て」
魔王は無造作に魔方陣の中に入り、陣の中央に立つ。すると、模様に沿って輝いていた光が、青白いものから白一色になり、光量が増した。部屋は松明を一斉に点けたかのように、一気に隅々まで明るくなる。
「何をしたんでぃ?」
「魔方陣の術式を書き換えた。これで中に入って念じれば、望みの地へと飛べるじゃろ」
魔王はなふゆたちの近くに戻り、中に入るように告げた。
その言葉に、なふゆは困った表情になる。
「でも、わたし・・・わたしのことを呼んでいる人が、どこに居るのか分からないし・・・」
「ならば、その者を念(おも)え。姿が判らないなら声を、声が判らぬなら気配を、じゃ。これはお主にしか出来ぬ」
「う、うん。分かったよ」
なふゆは魔方陣の前に立つと、意を決して一歩踏み込む。
しかしその直前、なふゆの肩に乗っていたりっちゃんを、いきなりエリエスヴィエラがひょいと摘み上げた。
突然のことに不思議に思う二人。魔王は小動物には目もくれず、
「お主は先に中に入っているがよい。ワシは少々、此奴と大切な話があるでな」
「オレッちには、んなモン無いが――」
「黙っておれ。
よいか、銀雪を纏いしモノよ。陣の中央に立ったらよくイメージすることじゃ。
もし念いが揺らげば、何処に飛ばされるか判らぬ。それをゆめゆめ忘れるではないぞ」
殊勝な顔でなふゆは頷き、ゆっくりと陣の中央まで歩を進める。
その途中、なふゆがちらりと後ろを振り返ると、エリエスヴィエラがりっちゃんを手のひらに乗せ、自分の顔の辺りまで持ち上げて何かを喋っているのが見えた。
ちょうど影になっていて二人の表情は判らないし、小声過ぎて何を話しているのかも聞こえない。
すると意識を向けられているのに気が付いたのか、魔王はなふゆに向かって「時間が無いと言っておるじゃろうが」と、苛立った声を上げた。
なふゆは慌てて二人に背を向け、魔方陣の真ん中に立つ。
僅かながら浮遊感が伝わってきて、着物の袂や裾がふわふわと揺れる。
「イメージ、かぁ・・・」
なふゆは少し迷うと、体の力を抜き、目を閉じた。
自分のことを念ってくれている、姿も声も判らないその人を、ただ一心に強く念う。
何故これほどまでにわたしのことを念ってくれるのか、わたしの過去を知っている人なのか、わたしにとってどういう人なのか。
色んな疑問が湧き出てきて、やがて一つずつ消えていき、最後に純粋な念いだけが残る。
それに呼応するように、乱舞していた光が緩やかに纏まり集まり、そして弾けた。
「わぁ~・・・キレイ・・・」
なふゆが目を開けると、目の前を光の粒子が静かに舞っていた。
上から下へ、それはまるで雪のように。優しく包み込むように淡く光りながら、陣の中を埋め尽くすように降り注いでいた。
「うむ、成功したようじゃのぅ。それがお主にとっての、目指す者への道標となるじゃろう」
エリエスヴィエラの声に、なふゆは笑顔で振り返る。
「これで準備はおっけーだね。それじゃりっちゃん、行こうっ」
「・・・・・・」
エリエスヴィエラの手のひらの上から、魔方陣の近くに立つ、なふゆの胸くらいの高さがある石版の上に移動していた小動物は、なふゆに声をかけられても黙って目を伏せていた。
「・・・りっちゃん?」
再度、呼びかけるなふゆ。
小動物は顔を上げずに、呻くように声を漏らす。
「・・・すまねぇ、なふゆ」
「え?」
「オレッちが行けるのは、ここまでだ」
「りっちゃん、何を・・・言ってるの?」
雪女は小動物の言った意味が捉えきれず、戸惑いながらもぎこちなく笑いかけるように問う。
「なふゆ」
小動物は強い意志のこもった声でなふゆの名を呼び、その伏せていた顔を上げた。
「ここで、お別れだ」
りっちゃんが行けないのは、もしかして
・・・などと想像をめぐらせていたりします。
読み落としている部分に、書いてあったのかも、しれませんので、
書いちゃまずいのかなと、思いつつ。
機会があったら、こちらからも何か伝えたいな、などと思っています。
そもそも書くのかどうかも、私のは、あやしいですけれど。
ひとまずは、このくらいで。